会員制コミュニティ農園「EdiblePark茅ヶ崎」は、他の農園やコミュニティに見学に行ったり、受け入れたりする「学び合い、支え合い」を大切にしています。
今回の見学先は、EdiblePark茅ヶ崎のご近所さん。神奈川県茅ヶ崎市で炭素循環農法を実践する「茅ヶ崎どっこいファーム」さん(以下、どっこいファームさん)を訪ねて、代表の吉野正人さんにお話を伺いました。
微生物を活かして「循環」で野菜を育てる畑
どっこいファームさんの畑は、EdiblePark茅ヶ崎から車で5分ほど。EdibleParkが「丘の下」、どっこいファームさんは「丘の上」という位置関係です。どちらも住所は茅ヶ崎市赤羽根ですが、どっこいファームさんのある場所は「赤羽根山(あかばねやま)」と呼ばれているのだとか。
教師をしていた吉野さんは、学校で勤務する日々の中で「自分が食べるものを自分で作ったらおもしろいんじゃないか」と考えるようになり、定年退職を前に農家になることを決意したそうです。
2年間の研修を経て、どっこいファームをスタート。2021年11月現在、4年目です。
どっこいファームさんの風景。心地よい風が吹き抜けます。(2021年11月撮影)
どっこいファームさんが実践している「炭素循環農法」は、炭素を多く含む資材(木材を細かく砕いたウッドチップなど)を畑に投入する農法です。炭素資材はそのままでは肥料になりませんが、さまざまな微生物が分解することで、野菜が栄養として利用できる形に変化していくのです。
炭素資材から微生物、そして野菜へと炭素が循環するから「炭素循環農法」といわれています。栄養をいきなり土に入れるのではなく微生物の力で作り出す点が、化学肥料を使う農法との大きな違いといえるでしょう。
炭素循環農法についてご興味を持たれた方は、ぜひ詳しく調べてみてください。
吉野さんのお話を伺っていると、この「循環」をすごく意識して野菜を作っていることがわかります。例えば、湘南唯一の蔵元である「熊澤酒造」さんの酒粕やビール粕を使うのも、「循環のためにやっている」と話してくださいました。
「循環」は、栄養の話だけではありません。畑で育った野菜に花が咲き、種が落ちて、次の年も同じ場所に野菜が育つ。そうした「命の循環」を見られることが自然栽培の醍醐味だと、吉野さんは考えているそうです。
こぼれた種から育ったパクチー。白い花がやがて種を実らせ、また次の世代へとつながっていきます。(2021年11月撮影)
ウッドチップの扱いならお手の物!?タマネギ植え付けのコツをつかむ!
この日、EdiblePark茅ヶ崎のメンバーは通路の整備とタマネギの植え付けをお手伝いしました。
通路の整備は、畝と畝の間にウッドチップを敷き詰める作業です。通路に生える草を抑えるとともに、微生物が活動できる環境を作り出し、畝で育つ野菜にも良い効果があると考えられています。
EdiblePark茅ヶ崎も炭素循環農法をベースにしているので、メンバーはウッドチップを運ぶのには慣れています。ウッドチップを保管場所から一輪車で運び、通路に投入し、きれいに敷く作業をうまく分担して進めました。
運んできたウッドチップを、通路に入れていきます。(2021年11月撮影)
ウッドチップはカブトムシの幼虫のエサにもなります。ウッドチップの山を崩すと、大きな幼虫が次から次へと出てくるので、さまざまな生き物が「循環」に関わっていることを実感できます。
幼虫は、吉野さんが作った育成用の箱にそっと移しました。
通路の整備が終わると、畝と通路がはっきり区別できるようになりました。(2021年11月撮影)
その次は、タマネギの苗を植え付ける作業です。
EdiblePark茅ヶ崎でタマネギを育てるときは苗を購入していますが、どっこいファームさんは種から苗を育てています。苗の育て方も見せていただき、メンバーは興味津々で見入っていました。
「玉」も葉っぱも小さい苗ですが、鉛筆のような形に削った棒で、土に押し込むようにすると上手に植えられると教わり、スイスイと作業が進みました。
他にも、マルチに等間隔で穴を開ける道具を自作するなど、吉野さんはさまざまな工夫を凝らしています。
炭素循環農法や自然栽培というと、とにかく時間をかけてのんびりやっているイメージがあるかもしれません。でも、どっこいファームさんでは機械や道具も使って、効率化できるところは効率化しています。
自然栽培の理念を根底として大切にしつつ、お客さんにきちんと野菜を届ける。その姿勢から、たくさんのことを学ばせていただきました。
タマネギ苗の植え方を解説してくださる吉野さん。右下にたくさん写っているのが、タマネギ苗です。(2021年11月撮影)
「野菜と自分とのストーリーを作ってもらいたい」
「どっこいファーム」という名前は、神奈川県の「相州みこし」を担ぐときの掛け声「どっこい」からとったそうです。
「おみこしは一人じゃ担げないでしょう。畑も同じで、一人じゃできない。だから、この畑にいろいろな人が来てくれれば、自分も嬉しいし、野菜も嬉しいんじゃないかと思って」と、朗らかに笑う吉野さん。茅ヶ崎市の援農ボランティア制度を利用したり、イベントを企画したりするなど、積極的に畑に人を呼んでいます。
吉野さんは、畑に来てくれる人に、野菜の「最終形」だけではなく生育過程を見てもらうことを大切にしています。それが「野菜と自分とのストーリーを作る」ということ。
「自分が手掛けたものに対する愛着が、調味料になる。野菜の味はそこから来るんだよ。誰だって、自分の手で作った野菜が世界一なんだ」と語る吉野さんに、EdiblePark茅ヶ崎のメンバーも大きくうなずきました。
野菜だけでなく「人」や「地域」にも向き合い、その土地で必要とされる農家になる。それを、気負わず自然体で実現していることが、どっこいファームさんの大きな魅力だと感じました。
どっこいファームさんで育った野菜たち。左からルッコラ、紫水菜、カブ。どれも瑞々しくて立派です!(2021年11月撮影)
「農」でつながる人と人の輪
見学に行ったEdiblePark茅ヶ崎のメンバーに、感想をお聞きしました。
「参加して最も感じたことは、どっこいファームさんの自然栽培の質の高さ、能率の良さです。タマネギの苗を植える作業のとき、苗を扱いやすい形状にしてもらったり、苗を押し入れるペンシル形の即席工具を作ったり、わかりやすく丁寧な事前のレクチャーがあったことなどによって、とても能率よく作業ができたと感じました。今後は即席ペンシルを使った苗植え作業を、EdiblePark茅ヶ崎でも活用していきたいと思います。
農は人と人とをつなげ、幸せを共有できる素晴らしい文化なんだということを感じました。このことは僕が自然栽培に興味を持ったきっかけにもなっているので、これからも大切にしていきたいテーマです」
「最近やっとEdiblePark茅ヶ崎の畑に見慣れてきていたので、吉野さんの畑の美しさには圧倒されました。わかりやすい例えや、噛み砕いた丁寧な説明はさすが『吉野先生』!
畑初心者の私にも理解できるよう配慮してくださったおかげで、楽しく学ぶことができました。今まで考えもしなかった微生物や土のことにまで興味を持てたことで、新しいドアを開けてしまった気分でワクワクが止まりません。貴重な体験ありがとうございました」
吉野さんのわかりやすい説明に感銘を受けて、ますます興味が深まったメンバーが多かったようです。ご近所で炭素循環農法に取り組む仲間として、今後もさらに協力し合っていきたいと思います!
今回の取材にご協力いただいた、茅ヶ崎どっこいファームさんのSNSはこちらから。
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