植物を育てるときに欠かせない「たね(種子)」。家庭菜園やプランターなどで野菜を育てている方もいらっしゃると思いますが、「たね」はどこで手に入れますか?
園芸店やホームセンター、100円均一ショップに行けば、多種多様な「たね」が売られています。でも、「たね」を誰がどこで育てたか、気にしている方は少ないのではないでしょうか。
「たね」は命そのもの。野菜がどんな環境で育ってきたのか、どんな特徴を持っているのか、次世代につなぐための情報が詰まっています。「たね」が辿ってきた道すじを少しでも知ることができたら、興味深いですね。
今回は、「たね」をみんなで分かち合うことができるプロジェクト「Share Seeds」についてご紹介します。
固定種の種子をもらったり、あげたりできるのがShare Seeds
「自家採種」という言葉をご存じでしょうか。自分で育てた植物の種子をとって、それをまた次のシーズンにまいて育てる・・・ということを繰り返すのが自家採種です。当たり前のことのように思えるかもしれませんが、発芽率の良い種子を購入できるようになった今では、プロの農家さんでも、自家採種をしている人は多くありません。
家庭菜園などで自家採種した種子を、他の人とシェアする活動をしているのがShare Seeds。会社やNPOではなく、いわゆる有志の集まりです。
自分が一生懸命に育てた野菜から「たね」をとって、これから野菜を育てようとしている誰かにギフトして、どんどん広がっていくことを考えるとワクワクする!という方は、ぜひShare Seedsを始めてみてはいかがでしょうか。
「たね」のシェアには、いくつかの決まりがあります。シェアすることができるのは、固定種(※1)の種子に限ります。また、固定種であっても、登録品種(※2)の場合はシェアすることができないのでご注意ください。自家採種ではなく、買ったけど余ってしまったという種子も、登録品種でない固定種ならシェアすることができます。
※1 固定種 何世代も採種を繰り返して、形や性質が固定された種。
※2 登録品種 品種登録制度によって、育成者の権利が保護されている種。
固定種や登録品種については、Share Seedsのサイトをご覧ください。
自家採種のためには、収穫時期を過ぎても野菜をずっと畑に残しておくことになります(トマトやカボチャなど、食べるために収穫した野菜からそのまま採種できるものもあります)。次に種子をまくときまで良い状態で保管しておくために、「きれいに洗う」「陰干しする」「密閉容器に入れて涼しい場所に置いておく」など、いろいろ気をつかう必要もあります。失敗すると、種子がダメになってしまうことも。
自家採種をやろうとすると、野菜を育てて収穫すること以外にも手間がかかりますし、必ず毎回成功するとはいえません。そのことを理解した上で、無理なくできる範囲から少しずつ始めてみるのが良いと思います。自家採種した種子から立派な野菜が育ってくれたときの喜びは大きいですよ!
独断でおすすめ!自家採種初心者向きの野菜3選
・バジル
花が咲いてからしばらく放っておくと、小さな黒い種子ができます。花も葉っぱも次々に出てくるので、種取りと収穫を同じ時期にできるのが良いところです。1株からたくさんの種子が取れるので、一度育てれば毎年つないでいくのも難しくありません。
・カボチャ
食べるときに取り除いてしまう種子を、きれいに洗って乾かしておくだけです。粒が大きいので、洗っているときにうっかり水道に流してしまうというハプニングも比較的少ないはずです(笑)
・ニンジン
一度収穫してから他の場所に埋め直すことができるので、形の良いものを選んで、畑の片隅で種取りができます。埋めておくと最初の葉っぱは全部落ちてしまうのですが、そのうちに新しい葉っぱが伸びてきて、白い花が咲きます。花が咲き終わった後に、小さい種子がびっしりと残ります。
ニンジンの花(左)と種子(右)。1本のニンジンから、白くてきれいな花がたくさん咲くので見応えがあります。(2020年5月/2020年8月撮影)
Share Seedsの「たねBOX」は誰でも始められます!
「たねをシェアする」という活動自体は、特別な準備が必要なものではありません。自家採種をしている人なら、すぐにでも種子をシェアすることができます。友達同士で「キュウリのたね、余ってない?」とか「今年はトマトを育ててみたいんだけど」など、わいわい会話をしながら種子を交換するのも楽しいですね。
さらに、もっと多くの人と「たね」でつながることのできる仕組みが、Share Seedsの「たねBOX」です。
BOXの形や大きさに決まりはありません。種子を封筒やビンに入れて、種子の名前や育て方などを書き、箱の中に並べておきます。「たね」が欲しい人は、BOXの中から種子を選んで、必要な分だけを持ち帰ります。持って行ってもらった「たね」から野菜が育って、そこで取れた「たね」がいつかBOXに帰ってきたら、嬉しいですよね。 感謝の気持ちを書き込んでもらうノートを一緒に置いておくと、後から読み返すこともできるので、さらに楽しくなりますよ。
たねBOXは、イベントやワークショップの会場、よく行くお店・カフェなどに置かせてもらうと、よりたくさんの人に見てもらえるようになります(※設置するときは、イベントの主催者やお店の方に許可をとってください)。来てくれた人から、「こんな品種もあるよ」とか「こうやって育てるといいよ」など、新たな情報を教えてもらえることも。
何よりも、たねの話をきっかけに交流が生まれて、輪が広がっていくのがとても素敵なことだと思います。
Green Rhythm代表のコジマは、自然農法の野菜を移動販売している「その町のほんの小さな八百屋 まる然」さんにお願いして、出店スペースの一部にたねBOXを置かせていただいています。
こんな風に小規模から始められるのが、たねBOXの良いところです。たねは数種類でも構いませんし、量が少なくても問題ありません。
たねBOXをあちこちに置かせてもらうことで、「たね」の話に興味を持ってくださる方が、少しでも増えていけば良いなと思っています。
相鉄線さがみ野駅前「Cafe the Dip’s」さん店頭にて。「まる然」さんのお野菜と並んで、たねBOXを置かせていただきました。(2020年7月撮影)
Share Seedsが目指すのは「ありがとう」の循環
お店に行けば種子を買うことができるのに、なぜ手間ひまかけて自家採種し、無償で他の人と分かち合う活動をするのだろう?と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
固定種とF1種(一代交配種)の違いや、固定種の「たね」を受け継ぐことの意義については、すでにたくさんの方がお話ししてくださっているので、ここでは割愛します。ご興味を持たれた方は、ぜひ調べてみてください。
ここでご紹介したいのは、「たねを受け継ぐこと」だけにとどまらない、Share Seedsの活動の広がりです。
先日、Share Seedsの発起人である末木さんから、お話を伺う機会がありました。
印象的だったのは、末木さんがおっしゃった「感謝の森」という言葉。感謝の気持ちが森のようにどんどん広がっていく、という意味だと受け取りました。
Share Seedsの活動によって人から人へと渡っていくのは、物としての種子だけではありません。「たね」を取るための知恵や努力の積み重ね、さらには、「たねを譲ってくれてありがとう」「もらってくれてありがとう」という感謝の気持ちが、リレーのようにつながっていくのです。それはまさに、小さな「たね」が風に乗って、遠くの見知らぬ土地まで旅をしていくのに似ています。
そう考えてみると、不思議なことに、珍しい「たね」を独り占めしたいという気持ちよりも、たくさんの仲間たちにギフトしたい、シェアしたいという気持ちが強くなってきます。
感謝と共感でつながるコミュニティが身近なところに増えていくと、みんながお互いを思いやれるようになっていくのではないでしょうか。
Share Seedsの活動にはそういう意味も含まれているのかもしれないと、末木さんのお話を伺っていて感じました。
Share Seedsの活動は、今後も各地で続いていきます。自分も何かやってみたい!と思われた方は、まずはShare Seedsのサイトをご覧になってみてください。
Share Seedsのサイトはこちら
Share Seedsでいただいた種子をEdiblePark茅ヶ崎で育てて、立派なカブができました。ゴールデングローブカブ(左)と、パープルトップホワイトグローブカブ(右)。たねの出身地は熊本です。ありがとうございました。(2019年12月撮影)
たねBOXを置いてくださっている「その町のほんの小さな八百屋 まる然」さんの紹介記事はこちら