Green Rhythm代表のコジマが、友人のシェフ・亜妃琉まことさんと「食と農」について語る「あひるシェフとゆる深トーク」のコーナー。これまでの6回では、「フードロス」「食育」「調理技術の上達」をテーマに語り合ってきました。
今回はちょっと雰囲気を変えて、あひるシェフの料理に対する哲学にぐっと迫ります。 そこから、「外食」の意義をもう一度見直して、楽しむためのコツを探ってみました。
提供したいのは「料理」よりも「食体験」
コジマ:これまでのゆる深トークでは、どちらかというと「家庭での食」に目を向けた話をしてきましたが、今回は「外食」について考えましょう! ここでいう「外食」とは、プロが作った料理を食べるということです。ですので、自宅に運んでもらうケータリングなども含めます。
あひるシェフ:はい。今回は僕の主観になりますが、料理について、こういう視点で見てみるとさらにおもしろいかも?という話ができればと思っています。 新しい視点を知ると、外食の楽しみ方の幅が広がるんじゃないかと思いますよ。
コジマ:大人数でワイワイ外食するのは難しい時期ですが、こういうときだからこそ、なぜ外食するのかじっくり考えてみるのも良いですね。
あひるシェフ:一言で外食といっても、実際には数えきれないくらいの選択肢があります。料理人にもいろいろなタイプの人がいるし、飲食店だって千差万別です。
じゃあ「亜妃琉まこと」としては何で勝負するのか、どういうものをお客様に提供するのかと考えたときに、キーワードは「食体験」でした。
「料理」を提供するのと、「食体験」を提供するのは、同じではないと思うんですよ。
コジマ:「食体験」は、普段あまり意識していないかもしれないですね。もう少し詳しくお願いします。
あひるシェフ:僕が働いている「横濱ワイナリー」のワインを例に考えてみましょう。ワインに合う料理を出すことに加えて、ワインに関するエピソードを語って、お客様に楽しんでいただく。それが僕の考える「食体験の提供」の一つです。
コジマ:なるほど!ワインを飲みながらおいしい料理を食べて、ワイン作りのエピソードも聞けたら、さらに楽しくなりそうです。
あひるシェフ:もちろん、「料理」を純粋に極めたい人もたくさんいます。料理人それぞれの考え方がある中で、僕としては「食体験」を重視しているということです。
僕は、料理を振る舞うときに「おいしかった」と言ってもらうことがゴールではなく、「楽しかった」と言ってもらいたい。料理は一級のエンタメに負けない楽しみであってほしいと思っているんです。
コジマ:エンタメですか!だんだんと、あひるシェフの哲学が見えてきましたね。
横濱ワイナリーの醸造設備を紹介してくれる、あひるシェフ。(2017年9月撮影)
料理は映画であり、演劇であり、ゲームでもある!
コジマ:エンタメ(エンターテインメント)という言葉が出てきたので、そこに関連して、あひるシェフの料理論をもっとお聞きしたいです。
あひるシェフ:では、どうして料理とエンタメを関連づけて考えるようになったのかということから、順番にお話しします。
まず初めにピンと来たのは、映画監督でした。僕はもともと映画が好きで、製作過程を収録したメイキング映像もよく見ていたんです。そして、「ものづくり」を仕事にするには明確な意図がないといけないんだと気付きました。
コジマ:映画も料理も「ものづくり」として、目的意識を持って取り組むべきということですね。
あひるシェフ:そうです。映画監督も料理人も、意図を持って作品に情熱を込めますが、自分が表に出ることはほとんどないのも共通点だと思います。
あと、映画製作にはいろいろな制約があります。時間や予算、倫理的な決まりごととか。制約があるから、その中での創意工夫が効いてくるんですよ。それは料理にもいえることです。
コジマ:こうやって説明してもらうと、映画と料理には共通点があるんだと納得できますね。
あひるシェフ:映画監督を念頭において、料理人の修行をしていくうちに、舞台(演劇)の方が料理に近いのかもしれないと思うようになりました。
コジマ:映画の次は演劇だったんですね。それは、どうしてですか?
あひるシェフ:映画は基本的に一方通行だし、上映する内容はいつも同じです。でも演劇はライブなので、お客様とのコミュニケーションができるし、アドリブもできます。 僕はケータリングの仕事をしていて、現場での接客が大事だと常に感じていました。それが演劇に近いと思ったんです。
コジマ:たしかに、リアルタイムという意味では演劇の方が料理に近いように思えてきました。
あひるシェフ:演劇の要素は、料理にも当てはまります。役者は食材、衣装は器、舞台は食卓というように。
良い役者は、簡素な衣装や舞台セットでも観客の心を打つ演技をします。料理も同じで、食材の持つパワーが強ければ、過剰に手を加えなくてもお客様に響くと思っています。
反対に、演技が未熟な役者でも衣装や舞台セット、演出を工夫すれば目を引く存在になれます。それは、ベストとはいえない食材でも、おいしく調理できるのと近い感覚かなと。僕は、どちらの視点も持ちながら料理に向き合うことを心掛けています。
コジマ:料理人は、演劇だとどのポジションになるんでしょうか?
あひるシェフ:全体を仕切って役者を導く立場なので、演出家だと思います。それだけではなく、演出家とパフォーマーの役割を兼ねることもできます。
鉄板焼きのように、お客様の前で料理を完成させるのは「演出家兼パフォーマー」の例としてわかりやすいですね。
コジマ:料理だけでなく料理人も、お客様に見られているということですね。そういえばさっき、お客様とのコミュニケーションができるという話が出ましたが、料理におけるコミュニケーションってどんなことでしょう?
あひるシェフ:例えば、アレルギーのある方にはその食材を抜いた料理を出すという配慮も、コミュニケーションの一つです。
あるいは、演劇で「客いじり」をするのと似たようなやり方で、「そこのあなた、ちょっと味見してもらえませんか?」と声をかけるとか。
コジマ:そんな風に声をかけてもらえたらドキドキしますが、すごく楽しそうです!
あひるシェフ:ライブ形式ならではの楽しみ方ですね。 そうやって料理の仕事を続けていると、今度は、ゲームに近い部分もあると気付いたんです。
コジマ:映画、演劇の次はゲーム!おもしろいです。どの辺が料理との共通点なんでしょう?
あひるシェフ:ゲームって、制作サイドの「ここでこういう行動をとってほしい」という想定はあっても、ユーザーが実際にどうプレイするかはわからないですよね。
料理もそうなんです。例えば、「このソースをかけて食べてください」と言って出したとしても、ソースをかけないお客様もいるかもしれない。それは料理人がコントロールできることではないからです。
コジマ:最終的に「どうやって楽しむか」はお客様しだいなんですね。
あひるシェフ:そうです。料理を出したら、あとはお客様に委ねるしかない。「ソースをかけてもらえなかったらどうしよう?」と、ずーっと考えていても仕方がないわけです。どこかで線引きをする必要があると気付かせてくれたのが、ゲームでした。
コジマ:お話を聞いてみて、映画、演劇、ゲームそれぞれの特徴が料理とリンクしているというのが新鮮な視点でした。とても興味深かったです。
作る側には意図や創意工夫があるし、受け取る側もいろいろ考える。だから「楽しい!」と感じられるんでしょうね。
あひるシェフ:エンタメも料理も、お客様に喜んでいただいて初めて価値のあるものだと思います。作る側としては、「自分は今これが一番おもしろいと思いますが、どうですか?」というアプローチを続けていきたい。いつも相手のことを考えながら、自分が作りたいものを探究する姿勢が重要なんだろうと思っています。
あひるシェフのお料理紹介「ちょっと特別なワンプレート」
とあるイベントで、刺激の強いものが苦手というお客様のために、大皿料理と同じメニューを香辛料抜きにした一皿。苦手な食材がある人も、みんなと同じものを食べられるようにという気配りが光ります。(2019年4月撮影)
1回1回の食事を大切にしてほしい
コジマ:ではここで、「外食」に話題を戻しましょう。あひるシェフのお話を聞いて、外食に対する意識が少し変わった気がします。
これまでは、自分で料理を作るのが面倒だとか、自宅では作れないような料理を食べたいという理由で外食するんだと思っていました。でも、ちょっと視点を変えてみると、外食だからこそ「作り手の思いに触れること」ができるんですね。これは私の解釈ですが、あひるシェフの言う「食体験」には、作る側と食べる側がお互いのことを考えるという意味も含まれているのかもしれないと思いました。
あひるシェフ:僕は、食事は幸せを増やすための行為だと思っています。幸せの定義は難しいですが、「お腹いっぱいで”満腹”、胸までいっぱいで”満足”」という言葉を意識しています。「胸がいっぱいになる」というのは感情面。技術やクオリティだけでなく、感情も大切なんですよ。感情と結び付くから、食事は人の記憶に残るんです。
コジマ:本当に、その通りだと思います。私にも「忘れられない食事」がありますけど、味を覚えているかと言われたら、そうとも限りません。味じゃなくて感情を覚えているんですね。
あひるシェフ:今は外食を控えている人が多いかもしれませんが、落ち着いて外食できるようになったら、どんなお店を選ぼうか?どうやって外食を楽しもうか?と考えてみてください。
1回1回の食事を大切にして、楽しんでもらいたい。それが僕の考えです。
コジマ:あひるシェフ、今回もありがとうございました!
あひるシェフのお料理紹介「ナポリタン焼きそば」
できたて熱々の料理を頬張るのも、外食の楽しみの一つです。(横濱ワイナリーのイベントにて、2019年8月撮影)
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