「食と農」をテーマに、Green Rhythm代表のコジマがゲストと語り合うコーナー。ゲストは前回に引き続き、友人のシェフ・亜妃琉まことさんです。
今回は、「調理技術について考える三部作」のクライマックスとなる「実践編」。あひるシェフのリアルな現場での経験談をたっぷり語っていただきます。その先に見えてくる、料理人としての仕事論とは。
料理の理屈で、想定外のピンチもスパッと解決!
コジマ:これまで2回のトークで「調理の基礎編」と、「基礎がわかった上での応用編」についてお話ししてきました。「実践編」を始める前に、前回までに出てきたキーワードをおさらいしましょう。
まず、「料理の”理”は理屈の”理”」。料理の理屈(なぜそうするのか、なぜそうなるのか)を知ろうということでした。
それと、調理技術のレベルアップのために大事なのが「食の因数分解(=構成要素を理解すること)」。ポン酢の例がわかりやすかったです!
あひるシェフ:理屈を知って、因数分解ができるようになると、レパートリーが広がります。フードロスを減らすことにもつながるという話をしましたね。どうしてかというと、一つのやり方にとらわれずに、代わりの調味料や食材を見つけられるようになるからなんです。
今回は、料理の理屈を現場で生かした経験についてお話しします。名付けて「オーブンを探せ!事件」です。
コジマ:それは気になります!どんなことがあったんですか?
あひるシェフ:2015年の話です。ホームパーティーのケータリングの依頼を受けて、お客様のお宅に伺いました。ローストポークをリクエストしてくださったので、「オーブンがあれば、焼きたてを提供します」と提案したんです。下処理を済ませた食材を持ち込めば、その場で焼き上げられるので。
コジマ:出来たてのローストポークが食べられたら、みなさん喜ぶでしょうね。
あひるシェフ:ところが、当日伺ってみたら、オーブンが使えなかったんです。しばらく使われていなかったみたいで、調子が悪いことに気が付いていなかったんですね。
コジマ:えっ、でも、オーブンを修理する時間はないですよね。大ピンチじゃないですか!
あひるシェフ:そういうときにこそ、料理の理屈が役に立つんです。ではここで、ローストポークの作り方を簡単に説明します。
(1)豚のかたまり肉に下味を付ける。
(2)フライパンで豚肉の表面に焼き色を付ける。
(3)豚肉をオーブンに入れて、じっくり焼く。
そもそも、(3)でオーブンを使う理由はなんだと思いますか?
コジマ:(2)のときは豚肉の表面しか焼けてないから、オーブンでさらに焼いて、中心までしっかり火を通すということですよね。
あひるシェフ:そうです。オーブンって、「空気の熱」で間接的に食材を加熱する装置なんですよ。レシピで「180℃のオーブンで10分焼く」などの書き方を見かけると思いますが、この180℃というのは庫内の空気の温度です。
コジマ:なるほど。直接火に当たっているわけじゃないのに、かたまり肉の中までちゃんと焼けるのは、周りの空気が高温になっているからなんですね。
あひるシェフ:直火と違って乾燥しすぎないので、ローストポークをジューシーに焼き上げられます。
コジマ:でも、このときはオーブンが使えなかったから、その場で代わりになるものを探したということですよね。
あひるシェフ:どうしたと思いますか?ヒントは、この本の中にあります。
コジマ:これまでにも何度かご紹介した、あひるシェフのレシピ本ですね。7ページ、調理用語の解説コーナーを読むと・・・、あっ!「加熱調理」の項目に、こんな記述がありますよ。
『蒸し焼き・・・主にフライパンなどに蓋をして中火から弱火で加熱すること。食材が持つ水分が少なければ水を加えることも。直火ではあるが、簡易的なオーブンに近い状態でもある。』
あひるシェフ:そこですね。「簡易的なオーブンに近い状態」というのがポイントです。蒸し焼きというのは「水蒸気の熱」で間接的に加熱する方法なので、オーブンで焼いたものに近づけられるんです。
コジマ:ということは、豚肉を蒸し焼きにしたんですか?
あひるシェフ:はい。このときは、豚肉を調理用のビニール袋に入れて、蒸し器で加熱しました。でき上がったローストポークは、ホームパーティー参加者の方々にとても喜んでもらえて、主催者の方も満足してくださいました。
コジマ:これにて一件落着!ですね。
横濱ワイナリーのイートインにて、あひるシェフ特製ローストポークとおつまみ、ご飯のセット。こちらのローストポークはオーブンで焼き上げています。(2019年9月撮影)
料理を作る前に「目的」を考えよう!
あひるシェフ:ローストポークの話を通して僕が言いたかったのは、料理の理屈を知っていれば、調理法や器具も、代わりのものを見つけられるということなんです。ぶれちゃいけないのは「目的」。それ以外は状況に応じて柔軟に対応すればいいんですよ。
コジマ:「料理の目的」ですか。
あひるシェフ:僕はいつも「お客様に喜んでほしい」と思っています。そのために「どの部分がおいしいのか」「何と言って褒めてほしいのか」を考えます。さっきの例なら「ローストポークがジューシーでおいしい!と言ってもらいたい」というように。
コジマ:言われてみれば、ローストポークを作る目的は「オーブンを使うこと」ではないですね。だから、オーブンにこだわらなくても良かったんですね。
あひるシェフ:そういうことです。もう一つ、別の例で考えてみましょう。「野菜のグリル」ってありますよね。いろいろな野菜を網や鉄板の上に乗せて焼く料理です。この料理の目的はなんでしょうか?
コジマ:うーん、グリルですから、熱々の状態で食べたいです。ところどころ冷めてたり、生焼けだったりしたらがっかりしてしまうかも・・・。
あひるシェフ:そうですね。目的は「全ての野菜を、焼きたて熱々でお客様に出すこと」です。目的を決めて、そのための手順を組み立てることが重要なんです。野菜は種類によって火の通り方が違うので、焼けるまでの時間を考えて順番を決めていきます。
コジマ:そうか、全部の野菜をいっぺんに焼き始めると、仕上がりが揃わないんですね。目的を決めておく重要性がわかってきました!
あひるシェフ:目的があれば、もし達成できなかったとしても、反省して改善することで成長できます。最初から完璧にやろうとするよりも、目的に対して何が足りなかったのかを反省することが上達につながるんです。
おいしそうに焼けているアスパラ。他の野菜と一緒に焼く場合はどうする?と考えてみるとおもしろいです。(写真は横濱ワイナリーのイベントにて、2019年8月撮影)
あひるシェフが語る、料理人の仕事とは
コジマ:さて、三部作の締めとなる「実践編」も大詰めです。普段じっくり考える機会の少ないテーマについて、あひるシェフと語り合えたのは本当に良い経験になりました!
「何と言って褒めてほしいか」と目的を考えるのは、家庭料理でも参考になりますね。
あひるシェフ:とはいえ、こちらがどれだけ目的を考えても、違うところで喜ばれることもあります。料理人は感情に訴えかける仕事なので、「これが正解」といえるものはないんでしょうね。それに、料理人とお客様の関係って一期一会だと思うんです。一度お店に来てくれた人が、二度来てくれることはないかもしれない。それが当たり前の世界です。
だから、自分で自分の改善点を見つけるしかないと思っています。妥協しだすとキリがないので、常にベストを追求し続けたいですね。
コジマ:あひるシェフの「自分の仕事を客観的に評価する」という姿勢が、たくさんのお客様に喜ばれることにつながっているんでしょうね。
私の場合も調理技術を磨くことが最終目的ではなくて、おいしいものを作ること、食べて楽しむことが目的なんだなと強く感じました。今はちょっと難しい状況ですけど、できれば友達や仲間たちと集まって、みんなでワイワイ、一緒においしいものを食べられたらいいなと思います。
あひるシェフ:料理を作るときは「大切な人に作ってあげる気持ち」で作ると良いですよ。心がこもりますから。
コジマ:それは、一番大切なことかもしれないですね。
あひるシェフ、ありがとうございました!語りたいテーマはまだまだたくさんあるので、これからもぜひよろしくお願いします。
あひるシェフのレシピ本はこちら。
【for YOU Kitchen 〜今日はだれとゴハンしよう?〜】
著 亜妃琉まこと
製作 Atelier More
初版発行 2013年11月20日
※レシピ本の著作権は、亜妃琉まことさんにあります。画像や本文の無断転載はご遠慮ください。
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